【2018年度介護報酬改定について】

 2018年度介護報酬改定は0.54%のプラス改定になりました。今改定は6年に1度の同時改定で、団塊世代が全て後期高齢者となる2025年に向けて、診療報酬と介護報酬の整合性を図りつつ将来の医療・介護提供体制を維持するための改定内容になっています。

 2018年度診療報酬改定では「早期の在宅復帰」と「在宅医療の量的整備」が主要なテーマになっています。早期かつ緊急な医療・介護連携が求められている状況を受け、今回の介護報酬改定でも医療・介護サービスを切れ目なく提供する地域包括ケアシステムの推進が重要ポイントに挙がっています。

 医療との連携との要となる居宅介護支援では、入院時情報連携加算の見直しによる早期連携の促進のほか、退院・退所加算の拡充、ターミナルケアマネジメント加算の創設などで、医療との関わりが大きく見直されました。さらに医療・介護の複合ニーズに対応する新サービスとして介護医療院を創設。このほか、訪問リハビリテーション・通所リハビリテーションのリハビリテーションマネジメント加算で、医師の詳細な指示を要件化したり、特別養護老人ホームでの配置医師の緊急時対応を評価しています。同時改定であることから、介護サービスにおける医療の役割をより重視した内容となっています。

2018年度介護報酬改定の4つのポイント

Ⅰ.地域包括ケアシステムの推進(中重度者も含めた切れ目のない医療・介護サービスの提供)

   ○中重度の在宅要介護者や居住系サービスの利用者、特養入所者の医療ニーズへの対応

   ○医療・介護の役割分担と連携促進

   ○介護医療院の創設

   ○ケアマネジメントの質の向上と中立性の確保

Ⅱ.質の高い介護サービスの実現(自立支援・重度化防止に資するサービスの実現)

   ○リハビリテーションへの医師の関与の強化

   ○通所・訪問リハビリにおけるアウトカム評価の拡充、通所介護へのアウトカム評価の導入

   ○外部のリハビリ専門職等との連携推進など、訪問介護等における自立支援の推進

   ○褥瘡の発生予防や排泄支援などに対する評価の新設

   ○身体拘束の適正化促進

Ⅲ.人材確保と生産性の向上(人材の有効活用やICT・ロボットを用いた効率化推進)

   ○生活援助の担い手の拡大

   ○介護ロボットの活用促進

   ○定期巡回・随時対応型訪問介護看護のオペレーター要件の緩和

   ○ICTを活用した訪問・通所リハビリにおけるリハビリ会議への参加

Ⅳ.報酬の適正化・重点化(介護保険制度の安定性確保)

   ○福祉用具貸与の価格の上限設定(2018年10月から)

   ○集合住宅減算の強化と区分支給限度額基準額の計算方法の見直し

   ○訪問看護の報酬体系見直し

   ○通所介護のサービス提供時間区分が1時間単位に見直し

   ○長時間の通所リハビリの基本報酬見直し

【コンテンツ】

1.病院外での「みとり」手厚く

2.入院中心から在宅推進

3.在宅医療はどう充実させるのか

4.自立支援の「成功報酬」とは

5.訪問介護の報酬は上がるのか

6.リハビリ職の外部派遣は進むのか

1.病院外での「みとり」手厚く

 「もうすぐお誕生日、楽しみやね」

 滋賀県長浜市郊外にある特別養護老人ホーム「ふくら」。ベッドで目を覚ました80代の入居者の女性に、職員で看護師の金森暢子さん(52)が話しかけた。女性は終末期を迎えていた。目を覚ます時間が短くなり、食事をとるのも日に日に難しくなっている。金森さんはできるかぎり口からの食事を介助し、家族と写った昔の写真のアルバムを片手に話しかける。

 国内の死亡者数の8割は今、医療機関で亡くなっている。そんな中で定員80人のこの特養では、毎年亡くなる25人ほどの9割が施設内でみとられる。4人の医師がいる近くの「浅井東診療所」と連携し、週1回の定期診療に加え、容体が急変したときなどに休日・夜間を問わず駆け付ける体制を整えているためだ。

 入居者が終末期に入ったことを伝える家族面談で、「特養でのみとり」を不安視する家族もいるが、体制を説明すると施設に残ることを選ぶ人も多いという。

 今回の同時改定では、医療と介護の連携強化を目指す仕組みがいくつもちりばめられた。焦点の1つが今後本格化する「多死社会」への備えをどう築くかだった。2016年の死者数は約131万人。

ピークの40年後には165万人超に達するとみられる。みとりの場が医療機関に集中する状態のままだと、病院のベッド数が足りなくなる恐れがあり、住み慣れた自宅や介護施設で最期を迎えられる環境づくりを目指した。

 「ふくら」のように入居者の急変時に、医師が往診できる体制を整た特養の報酬は手厚くされた。深夜・早朝に医師が訪れて診療した場合、1回あたり6,500~1万3千円の報酬が新たにつく。入居者が亡くなった時のみとりの報酬は、これまでより3千円高い1万5,800円となる。

 特養ではまた、末期がんといった介護職だけでは対応が難しい入居者を訪問診療の医師がみとった場合、最高で特養側に7万2,800円、医療機関側に6万5千円の報酬がそれぞれつく。これまではどちらか一方のみで、受け取りをめぐってもめることもあった。

 自宅や老人ホームなどの介護施設での体制も強化した。容体が急変しやすい末期がんの患者のもとをこまめにケアマネジャーが訪れ、状態の変化を主治医や介護事業者に情報提供すれば月4千円報酬がもらえるようになる。適切なタイミングで医療と介護を提供できるようにする狙いだ。


2.入院中心から在宅推進

 今回、医療と介護の連携が重視されたのは、団塊の世代がみんな75歳以上となり、医療費が急増していく「2025年問題」を乗り切る体制づくりの実質的な最後のチャンスとされていたためだ。安倍晋三首相は昨年の通常国会で「2025年までに残された期間を考えると、今回の同時改定を非常に重要な分水嶺と考えている」と語っていた。

 入院中心のままだと医療費がかさみ、サービスを受けられない高齢者が出る恐れもある。このため、政府は在宅医療へのシフトを進めている。

これを後押しするため、入院前から退院後の生活を見据えて医療・介護職がより協力して支援するよう、報酬を支払う条件を厳しくするなどした。

 ただ、医療と介護の報酬に手をつけるだけで25年問題を乗り切るのは難しく、医師が都市部などに集中する偏在問題の解消といった抜本的な取り組みが必要との指摘もある。


3.在宅医療はどう充実させるのか

 東京・新宿の大通りに面した「新宿ヒロクリニック」に、近くの男性(66)がぜんそくの治療で訪れた。車いすで一人暮らし。発作が起きると動けなくなり、過去に何度か救急車を呼んだが嫌がられた。この診療所は非常勤を含む医師や看護師ら約60人が訪問診療や夜間診療の往診に対応しており、「いつでも来てくれるので安心」と3~4年前から利用している。

 政府は、こうした地域で患者を継続的に診る「かかりつけ医」機能を備えた診療所や中小病院の普及を目指している。必要に応じて大病院などに紹介状を書いてつなぎ、介護の相談むにものる。患者が住み慣れた自宅や介護施設で暮らし続けるための役割は大きい。

 今回の改定では、24時間の往診や連絡体制があれば4月から患者1人つき初診料が新たに800円加算されるようになった。患者の窓口は原則1~3割負担なら240円負担が増えることになる。同クリニックの英裕雄院長(57)は「今後複数の慢性疾患を持った一人暮らしの高齢者が増える。そうした患者を一元的に支えるような『かかりつけ医』の重要性は増していく」と話す。方では医師が集まらず、24時間対応できない診療所も多い。このため、「チーム医療」の推進も図ることになった。

複数の診療所が連携し、24時間連絡がついて在宅患者に対応できる体制を築けば、患者1人あたり月2,160円の加算を受け取れるようになる。3割負担の人の窓口負担は月648円増となる。

 また、介護との連携で、退院後に自宅での生活にスムーズに戻れるようにする支援を強化する。

 入院後3日以内にケアマネジャーが病院に患者の生活ぶりや介護サービスの利用状況などを伝えれば、1回2千円の報酬がつくようにする。在宅復帰に向けたリハビリ計画を素早く作れるように、条件を「7日以内」から短くした。医師らと検討会を開き、退院後の生活を見据えたケアプランを作った場合の報酬は1回6千円に倍増する。

 リハビリを担う介護老人保健施設では、入居者が自宅で再び生活ができるよう努力した施設の報酬を引き上げる。具体的には、入居前に職員が利用者の自宅を訪ね、浴室の構造や部屋の段差を確認することが盛り込まれた。「足を高く上げないと風呂に入れない」などの情報があれば、リハビリに活かせるとの考えからだ。退居前に自宅を訪ね、生活上の注意点を家族に伝えることも評価される。


4.自立支援の「成功報酬」とは

 千葉県浦安市のデイサービス事業所「夢のみずうみ村」。毎日約90人の高齢者が利用するが、プールや陶芸、マッサージなど自分が選んだことをする。編み物を続けていた90代の女性は「好きなことがしたい。お仕着せはいや」。職員は極力手助けはせず、昼食も高齢者がよそって運ぶ。

 狙いは身体機能の維持や改善で、住み慣れた自宅などで長く過ごせるようにしてもらうことだ。藤原茂代表は「自分の意思でやりたいことを決めることが機能の回復に役立つ」と説く。

 こうした「自立支援」に取り組んで利用者の状態が改善すると、実は介護報酬が減る可能性がある。一般的に、利用者の介護の必要度に応じて報酬が増える仕組みのためだ。「在宅医療」の壁となるこうした状況を改めようと、今回の改正では自立支援に取り組むデイサービス事業所に「成功報酬」が導入される。

 まず、リハビリ効果を評価する基準を使って、利用者全員の身体機能をサービスの開始時に10項目にわたって採点する。点数は例えば、食事なら「細かくしてもらえば食べられる」が5点、「自分で時間内に食べられる」なら10点、歩行なら「車椅子で45メートル以上進める」が5点、「杖を使えば45メートル以上歩ける」が15点、などとなっている。

 この合計点の上位85%の利用者のうち、6カ月後に機能が改善して合計点が上がった人数が下がった人数以上になれば、利用者全員について1人あたり月30円の報酬が支払われる。全員の合計点が変わらなかった場合もOKだ。

 施設の自立支援の取り組みへの報酬も手厚くなる。特別養護老人ホームや介護老人保健施設で、入居者がおむつ交換など排泄に介助が必要な場合、原因を分析して介助を減らし排泄できるようにする計画を立てて実行すれば、1人つき付き千円報酬が増える。

 こうした動きに、夢のみずうみ村の藤原代表は一定の評価をする。一方で「本人の意思や意欲に関係なく、身体機能の向上だけを評価対象としており、リハビリ漬けになる人がでかけない」と危惧する。改善を見込める利用者だけを受け入れる事業者が出てくる恐れがあることも指摘する。

 厚生労働省はこうした声に配慮し、今回の「成功報酬」の額を抑えたとする。一方、現在、自立に効果のある介護の研究を進めており、3年後の次回の介護報酬改定では成功報酬の仕組みを広げていきたい考えだ。


5.訪問介護の報酬は上がるのか

 東京都新宿区に3拠点を構える訪問介護事業所「ケーワーカー」では、ヘルパーが交代で区内の約400人の高齢者の自宅を訪ねている。大半が一人暮らしで、認知症を患っている。

 ヘルパーは事業所の「連絡ノート」に利用者の状況を書き込み合う。この情報交換が日々の変化を知り「自分でできること」の範囲を見極めるのに役立つという。調理サービスを受ける80代男性は食べ残しが増えていることが共有され、ヘルパーは箸をスプーンに変えるなどなるべく1人で食べられるように支援した。佐藤修社長は「手伝い過ぎれば自分でできる力まで奪ってしまう」と話す。

 今回の介護報酬改定では掃除や洗濯といった「生活援助」について、ケーワーカーのように自立を手助けする取り組みをすれば、報酬が上がるようになった。

 例えば、ヘルパーだけで掃除をしたら報酬は20分ほどで1,810円。それが、利用者がゴミの分別を思い出せるようヘルパーが声がけをしながら掃除をすれば2,480円になる。

 また、要介護度が重い人による利用者が多い排泄や入浴を助ける「身体介護」の報酬も増やした。例えば、30分以上1時間未満なら60円増の3,940円となる。

 こうして手厚くした部分がある一方で、セインツ援助の基本報酬は下げられ、提供時間が45分以上なら20円減って2,230円となった。より高い技術が必要な身体介護に重点を置くため、メリハリをつけた。

 また、生活援助は1回の利用料の自己負担額数百円で、「家事代行のように使う人がいるとの指摘もある。乱用を防ぐため訪問介護の利用を抑える仕組みも新たに導入された。

 要介護度別に全国の平均利用回数をはじき、これを大きく上回った場合にケアマネジャーはケフプランを市区町村に提出する。目安は要介護度1なら月27回、要介護度3なら月43回だ。作業療法士や薬剤師ら他職種が連携してケアプランの妥当性を調べる「地域ケア会議」で検証し、無駄と判断されればボランティアなどの支援へと転換する。

 ただ、上限を設けることで生活に多大な影響を及ぼしかねないとの懸念もある。新宿区のあるケアマネジャーは、認知症や病気などで基準を超える利用者を多く抱える、中には食事の管理で1日複数回利用しなければ在宅生活が厳しい人むもいる。「地域ケア会議でメンバーを説得する手間ひまを考えると、自然と利用回数を抑えざるをえないかもしれない」


(朝日新聞に平成30年月3月下旬から連載された「教えて!診療・介護報酬の改定」から抜粋)

6.リハビリ職の外部派遣は進むのか

 地域の専門職を介して、介護事業所間の連携を推進しているのも今改定の特徴だ。複数のサービスで訪問リハビリ・通所リハビリ事業所やリハビリを提供する医療提供施設の理学療法士(PT)等と連携して個別サービス計画を作成した場合などを評価する生活機能向上連携加算が導入された。この加算は特に地域の通所リハビリと通所介護事業所の連携促進を意識したものだと考えられる。

 しかし現時点では、この加算に対して冷ややかな反応を示す事業者が少なくない。ある通所介護事業者はこう話す。「専門職を派遣してもらう側には加算が設けられているが、派遣する側にはメリットが少ない。恐らく事業者間で取り決めた委託料を別途支払わないと来てもらえないだろうが、そんな負担をするくらいなら自前で自立支援に取り組む」。

 加算創設の趣旨の一つは、小規模事業所での機能訓練の推進。また、通所リハビリの利用者が卒業して通所介護に移行した後も専門職がフォローを続けることで、ADL(日常生活動作)の低下時に早めに通所リハビリの利用を再開し、重度化を防止する狙いもある。

用者の状態に応じて事業所間の紹介が進めば、専門職を派遣する通所リハビリ側にとっても利用者の確保が可能。社会参加支援加算、生活行為向上リハビリテーション実施加算など、利用者の卒業によって得られる加算類の算定につながるメリットも生まれる。

 「通所介護事業者が専門職の派遣を希望するならば、まずADLが落ちてきた利用者のリストを通所リハビリ事業者に示し、『この方を紹介するので、3カ月間リハビリを集中して提供し、その後はうちに戻してください』などと提案し、それに併せて派遣を依頼してはどうか」。介護事業所のコンサルティングなどを手がける㈱ナレッジ・マネジメントケア研究所(東京都中央区)統括フェローの石垣修一氏はこう話す。

 一方で、例えば長時間型の通所介護から短時間型の通所リハビリに利用者を移行させようとすると、入浴のニーズが満たせなかったり、家族の受け入れ体制が整わないなどの理由で反対されやすいという現実もある。両サービスの連携には依然して課題がある。


(「日経ヘルスケア」2018年4月号より抜粋)